「獣にまつわる習作7 旧市街のパレード」
春の一日、祭の日にアカトゥイヤ市はことさらに賑わう。中でもパレードは主役であり、観光では少なくともこれを見逃すべきではない。北の旧市街から来た輝かしい鼓笛の編成が、港と博物館の前を通り、教会の前まで練り歩くのだ。
鼓笛隊や花持ちの少女も麗しいのだが、パレードで最も目を引くのは彼らではない。その後ろを我が物顔で着いていく無数の猫たちだ。猫はパレードが行くほど市街より合流してゆき、隊列を増し、教会に着くと自然と去っていく。
猫がパレードと共に歩くようになったのは、ある時の祭を境にしてからだという。その年は冬の明けが早く、祭の日はまるで初夏のようであったと言う。猫たちは誰に頼まれるでもなく、自然とテナーバス・トロンボーンの後ろを歩きはじめた。
その夜、旧市街で火が起こった。海風に煽られた火勢はあまりに強く、決して少なくない死傷者が出た。ところが、教会で祭の夜を楽しんでいた猫たち、それに連れられるがままとなっていた主たちは、難を逃れたのだ。
その話は猫の未来予知として新聞で大きく取り上げられ、一時は多くの記者がアカトゥイヤを訪れた。帝国お抱えの超能力研究者まで来たとも言われている。とはいえ猫のことであるから、話が聞けるというわけでもなく、だんだんと話題から消えていった。
翌年も、パレードの後ろを猫は歩いた。市の人々は何かまた起こるのかと恐れたが、結局のところ何も起こりはしなかった。それがその翌年も、翌々年も、ずっと続いている。もはや猫が未来予知をするなどと言う人はいない。
今年もまたパレードの後ろを猫が歩み、その後ろを飼い主が追いかけていく。教会では人用のご馳走だけでなく、猫用のものも用意するようになって久しい。今日ばかりは猫の粗相も多少は目をつむってもらえるのだ。
酒の席では「猫は未来予知できるけれど、人に利用されたくないから毎年歩くことにしたのだ」などと聞いた。本当にそうなのか、やはりご馳走目当てなのか。膝の上に勝手に陣取った猫に聞いてみるが、返事を確かめるすべは今の私にはないのであった。
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