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Timeworn Blog / 絵空つぐみによる雑文芸ブログです。移転しました → https://timeworn.blog

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「獣にまつわる習作3 幻獣の手首」

「獣にまつわる習作3 幻獣の手首」


 アカトゥイヤ市の公営博物館には、正体不明の獣の手首、あるいはそうと思われる何かが展示されている。これまで多くの学者がこれの同定を試みたが、果たして何に連なるものなのか、それは未だにわかっていない。地元の人々は幻獣の手首と呼び、これを恐れ敬うことすらある。

 この手首は、かつて盗難の憂き目にあったことがある。盗んだのは絵描きの男で、毎日博物館に通いつめ模写をし続けるほどこれに魅了されていたという。彼が想像した獣の体躯は、結局のところ絵画として完成はしなかったが、今はその手首と一緒に展示されている。

 盗難は、始めは気づかれなかった。その日、アカトゥイヤ市では大量殺人が発生し、それどころの話ではなかったのだ。死傷者の数は六十五人にも及んだが、多くの軍属の動員もあって、ようやく事件は終息した。それからして、ようやく獣の手首が盗まれていたことが明らかとなった。

 事件の下手人は絵描きの男だった。そして死した彼に右手はなく、代わりに盗まれた獣の手首が付いていたのだという。医師の報告書には、血管や神経すら繋がっていたとある。そういうわけで、今、博物館に展示されているそれの根元には、わずかながら人の皮膚の色が見えるのだという。
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