「コイン、コイン、コイン」

「コイン、コイン、コイン」


　ある朝、猛烈な吹雪の朝、俺の家に前世の嫁を名乗る女が訪ねてきた。もちろん信じたりなんかしないのだが、容姿も割と好みだったし、追い払うのもちと可哀想だったから、ついつい家の中にあげてしまった。下心も少しはあったと思う。

　女は安堵の表情を浮かべた。だけれどそれも一時のことで、すぐに彼女は態度を変えて説教を始めた。こんな女を信じて家にあげるなんて無用心にも程がある、悪人だったら今頃どうなっていたか、と。どの口が言うかと俺は反論し、簡単に口論となった。

　その女とは、結局のところ何もなかった。雪が止んだのを見て、俺は彼女を追い出したのだ。お茶の一杯くらいは出してやったかもしれないが、もしかするとそれすらも忘れていたかも知れない。もう二百年も前のことだからいちいち覚えてはいない。

　なぜそんな思い出話をしたかって？　昨日、あの女を見かけたからだ。気楽そうなあの顔、実に腹立たしい。覚えちゃいないだろうし、せっかくだから一つくらい嘘をついてきてやろうと思う。信じられないかもしれないが、俺はお前の前世の旦那だ、ってな。