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Timeworn Blog / 絵空つぐみによる雑文芸ブログです。移転しました → https://timeworn.blog

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「レミングは死なない」

「レミングは死なない」


 ある国に、ネズミ飼いの少女がいた。気立てよく穏やかで、たいそう美しい娘であったという。だが、彼女に付いて回るネズミの群れは気味悪く思われることもしばしばであった。彼女自身はそんな評判もどこ吹く風という様子であり、町外れの変わり者として暮らしていた。

 ある時、不運な男が彼女を見初めた。男はあの手この手で娘の気を引こうとしたが、娘は笑顔で往なすばかりであり、ことごとくの贈り物はネズミたちを豊かにすることに使われているように思えた。男は身を崩し、次第にネズミに憎しみを抱くようになっていったという。

 ある夕方、男の願いを嗅ぎとった魔女が男に二つの選択肢を持ちかけた。一つは女のネズミをすべて殺してしまう毒。もう一つは男をネズミに変えてしまう薬。酒に酔っていた男は、迷うことなく毒を選び、その足で女のもとへ毒を届けてしまった。効果はてきめんだったという。

 ネズミを失った娘は、悲しげに男を慰めたのち、無数のネズミの死体にくずおれた。彼女はネズミの見せた幻影だったのだ。男は取り返しのつかない過ちであったことを悟り、もう一つの薬を魔女に求めた。そうして男はネズミとなり、娘が再び現れるその日まで、町外れの塔を守ることになった。
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